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小説(?)を書いています 異能力の使い方

異能力の使い方 ー7話  力とは…-

『11号室』
私たちはこの部屋に戻ってきた。すぐに先ほど座っていたパイプ椅子に座った。
「ごくろうさま。君たちは元の場所に戻りたまえ。」
この部屋にいた多くの警察官はこの場を去っていった。
「全員、ここの課で勤めているのではないのですか?」
「もともとこの課に勤めているのは、私を含めて3人だけだ。緊急時には他の課から人手をかき集めている」
先ほどまでは緊急時だったわけなのか。私の存在が危険とみなされていたから。
私の心の中は不安と安心の相反する2つが入り交ざっていた。

 

「さて、話をしよう。君のその力について」
私と伊達ちゃんは真剣な眼差しで、永森さんを見つめた。
「先ほど無罪だと証した理由だが、先ほどの柔道とそこにいる友人の伊達さんの発言から私は無罪と断定した。君が能力をめざめさせたのは7月19日午後7時あたり。ちょうど御陵市4丁目にてアライグマ大量発生。君たちはアライグマから逃げている最中、襲撃されそうになった時に桃内さんが風の異能力をめざめさせる。アライグマを気絶。今日、8月4日午後1時37分にサッカーボールが当たりそうな時に風の異能力を発生させてボールを止めた。そして先ほどの柔道にて、私が巴投げを決めようとした際に発生。このことから君は自分が危機的状況に面したときのみ、異能力を発生することが分かる。よって、今までの異能力の使用は正当防衛と判断。君は無罪だ」
遠回りだが、結果は『無罪』だけは理解した。先ほどの長時間ノンストップ柔道試合は、伊達ちゃんの発言から異能力の使用条件を確かめるために行ったと今になってわかった。
最後に受けた技、『巴投げ』だったのか。中学で習ってない技だったから驚いた。体が空中に浮かす技なんて知らなかったから対応が分からなかった。それだから異能力が発動したのか。自分の体って不思議だな。
「だが無罪とは言え、異能力についての知識が皆無では危険すぎる。君たちの質問は9割は答える。さあ何かあるかい」
訊きたいことは山ほどある。でもまず口から出たのは
「…そもそもの話、異能力とは何ですか?」
「そうだな」
これが一番謎である。
「異能力は脳の覚醒による異能の能力だ。君の脳にも覚醒している証拠があった」
永森さんがファイルの中から、ホチキスで留められたプリントの束を私に渡した。
内容は私のデータ…先ほどの身体検査の結果だ。
MRIの結果を見てくれ」
早速言われた通りMRIの結果を開いた。よくわからないけど、右側中心部に赤丸で囲まれている。そのページを見ていると、また永森さんが指で刺して解説を始める
「普通の人間はここが広がることはない。広がったとしても、血圧が異常数値で体に害がある。しかし、君の血圧は104mmHgだ。」
次のページを開くと確かに血圧の数字が『104mmHg』と記載されていた。
「異能力を使える者は脳の覚醒によって、脳内に謎の空間を作る。医師でも病気だと勘違いすることも多々あるようだ。これが起こるのは3万人に1人ぐらいだ」
「5万人に1人。少ないですね」
と私は言った。
「いや、日本の人口で大体1億2000万人と換算すると、4000人ぐらいだから少なすぎるわけじゃない気もするよ」
と伊達ちゃんは言った。
少ないような多いような、中途半端である。私はその中の1人らしい。
「異能力は人によって違う。君は風の能力だが、私が見た一部では催眠術で人を操る者、炎を発生させるものなど様々だ」
「あの、質問いいですか」
質問したのは伊達ちゃんだ。いつもの授業でもわからないところがあったら、その授業の後に先生に一番乗りに質問する天才だ。じゃなくて秀才だった。
「話からして、異能力は人々から嫌われているものですか?噂で魔女と呼ばれていましたし」
その質問を聞いた永森さんは首を動かして、話をつづけた。
「ああ。嫌われている。何故なら異能力を持つ者が犯罪に使用するケースが多いからだ。先ほどの催眠術師は多くの客からお金をだまし取り、炎の異能力者は放火という犯罪を行った。人によってはブラックリストに登録される場合もある」
「…そんな」
私は驚愕した。人間は特別な力を会得したとき、悪のほうに向かってしまうのか。そうとなると私も悪の道に進んでしまうのではないかと感じた。
「可哀そうな例もある。4年前にとある町の事だが、親が自分の子供が異能力者だと知ったとき、その子供を殺した事故もあった」
そんなにも嫌われているのか。異能力というのは。
ただ、ここでも伊達ちゃんは疑問に思ったようだ。
「なんでニュースとかで流れないのですか?異能力に問題があったとしても、それを報道するのは別に問題ないはずではないと思いますが」
「報道はしているが、隠されている。」
その意味は全く分からなかった。まるでマジシャンが種も仕掛けもないと言いながら、本当は種も仕掛けもあるのと同じ気がした。ありきたりだけど。
「先ほどの虐待だが、マスメディアは『病気の息子 一思いに殺した親』と報道した。本当はマスメディアも表現の自由があるから本当のことを報じたいと思っている。しかし、それができないのだ」
「できない?」
次から次へと疑問が多くなる。
「秘密保護法というのは知っているかい」
いきなり公民の授業の問題を出された。中学校で習った覚えがあるけどうろ覚えだった。
「国の安全保障に支障をきたす恐れのある情報を外部に漏らしてはいけない、という法律ですよね」
そう答えたのはもちろん伊達ちゃん。100点満点の回答だった。
「そうだ。それに似たような法律がある。『準』秘密保護法だ」
準秘密保護法?初めて聞いた単語なのだが…。
「それ、本当にある法律ですか?」
あの伊達ちゃんも疑いの目をしていた。ということは、伊達ちゃんも初めて聞いたのであろう。
「本当にある法律だ。内容は先ほど伊達さんが回答したものと似たようなものだ。異能力は口外してはいけない。そのため報道は禁止している。それどころか国が厳しい目で見はっているのだ。しかし、例外として異能力に目覚めた者に対しては、丁寧に説明しなければならない。そうしなければ知らず知らずに危険を犯す可能性があるからだ。」
確かにいきなり変な力に目覚めて、その力の実態を知らないとどうすればいいか分からなくて混乱するだろう。現に私がその状況だった。
「あの…それ、友達である私は聞いてもいい話なのですかね」
「異能力を訳があって知った者にも教えなければならないというのもあるから、ここにいても問題ない」
正直、伊達ちゃんがいなければ、私はもっとあたふたしていただろう。もしかしたら有罪扱いされて、次の日に牢獄の中へ招待されていただろう。伊達ちゃんが私を助けてくれたといっても過言じゃない。私の高校生活の初めての友達が伊達ちゃんでよかった。
「そして、この課の事も普段から内密にされている」
「ひどいですね。知りたくても知れなくて、伝えたくても伝えられない世の中だったなんて」
私の率直な感想だ。

 

「昔のほうが酷かったわ」
入り口から女性が現れた。身体検査で罵声を上げていた女性だ。
「小間さん、もうデータを本部に送ったのですか」
「ええ、まあそんなに大変な作業ではないですからね」
彼女は永森さんの隣の席に座った。私はまた緊張が走る。また罵声を浴びせられるかと思って。
しかし、彼女はその時の雰囲気を出してはいなかった。
「身体検査の時はごめんなさいね。大声で罵倒して。もし、あなたが本当に危険人物だった場合、反抗して私たちを襲う可能性が高いと思って大声であなたを反抗することを妨げたかったのよ。裸にさせたのもごめんなさいね。恥ずかしかったでしょう」
本当は優しい人のようだ。彼女の心の中では身体検査で怒りたくはなかっただろう。
「さて先ほどの話だけど、昔は異能力が危険なものとはとらえられていなかった。むしろ優遇されていたものだったの。30年前ぐらいまでは…」
異能力について優遇という言葉がでた。
「約40年前、国が異能力者を優遇する制度を発表した。異能力者が当時の日本を活性化する
と考えた。この制度で成功する事業もあった。が、3万人に1人と、町に1人いるか分からない存在を確保する事業は少なかった。様々な事業は異能力者に優遇措置を出した。従業員の2倍の給料やら、生活費免除とか、次期社長候補に推薦されるなどね」
それはありがたすぎる。私、家で一人だから、生活費免除があったらどれだけ負担が減ったことやら。
「それを知った従業員は反感を覚えた。なぜそんなに異能力者に対して優遇措置を取るのか。あまりにも不公平ではないかと。デモが頻繁に起こり、事故も度々起こった。」
好かれる存在から嫌われる存在に変わる。人間は手の平を返すのが得意な動物かもしれない。
「国はそれを対処するため、約30年前に優遇制度を破棄。および準秘密保護法を執行した。異能力を本当はこの世には存在しないことにするために。なので、30代を境目に異能力を知っている者か知らぬ者か分かれる。たまに30代以上だとしても知らない人もいるけど」
私たちは10代。女子高生。だから私たちはこのことを知らなかったわけか。


「ほかに質問はあるかい」
「私はもう特にないです。桃内ちゃんは?」
私は気になっていたことが異能力を使える前から疑問に感じていたことがあった。
初めて異能力者を見たあの時。
「あの…質問ではないのですが、いいですか」
「どうぞ。気になっていることがあるならこの場で言いなさい」
3万人に1人と聞いてから疑問に感じていた。
「私、他に異能力を使っている人たちを見たんです。3人」
それを聞いて永森さんと小間さんは驚いた。
「すまないがその人たちの異能力を教えてくれないか?」
「えっと確か、ブロックみたいなのを出す男性と、見たものを水に変える女性と、遠くから音を聞く男性です」
それを聞いて2人は話し合っていた。
「もしかしてその3人って」
「間違いない。あいつらだ。協力ありがとう桃内さん」
あいつら…ってことは彼らの事を知っていることだろう。
「3人の事知っているのですか?」
「ああ。元暴力団の団員だ」
その一言で私は驚いた。あの時の優しさは嘘だったのかと疑った。
「でも、私を助けてくれた人たちですよ」
「小間さん、あれを持ってきてくれませんか?」
小間さんは椅子から立ち上がり、部屋の奥にある机に向かった。30秒後、プリントを持って戻ってきた。
そのプリントは3人が指名手配されていた。
私は信じられなかった。

 

たぶん続く

 

あとがき

解説したいことが多すぎて困った( ゚Д゚)

どうも百合染野(ゆりぞめや)です。

今回は解説回にしたのですが、まだまだ解説したいことは山積みです。しかし、これ以上記載すると自分でもパンクしそうなので、他に公表する解説は今後すこしずつ出していきます。

SF的な考えだとこの作品、若干堅苦しくてわかりづらいかもしれません。カタカナ用語が一切ないですからね。

異能力者をアビリティーズとやってもよかったかもしれませんでしたね。(意味合い変わりますけど)

 

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