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小説(?)を書いています 異能力の使い方

異能力の使い方 ー4話  変える力-

アライグマの危険性を承知の上で3人は細い道に入った。
もしかして、あの謎の力を使って駆除するのだろうか。いや、だとしてもどうやるのか。
一人は四面体(キューブ)を使って造形する。
一人は見ているものを水にさせる。
一人は音を操り、かき分ける。
その3つの謎の力でどうにかなるのか。

しかし、その疑問もすぐになくなった。
道に入ってから2分後、彼らが戻ってきた。真面目そうな男の腕には、猫が入っている段ボールがあった。
3人はただ
「駆除はできませんでした。ただ、追い払うことはできました。」
と、言っただけだった。
「それは、いったいどうやって」
「本来危険ではありますが、餌付け作戦で近くにある穴へ誘導しました。」
たぶん、嘘をついていると思う。でも、本当はどうやって止めたのかは私もわからない。
「餌付けで大丈夫って、本当かな?」
伊達ちゃんも疑問に思っていたらしい。なんとなくそうだねって頷いたけど。

とにもかくにも、少女のハンカチは無事取り戻せた。が、段ボールの中に入っていた猫たちの5匹中3匹はアライグマに食べられてしまった。ハンカチにも猫の血が付いていた。
ハンカチは係員がきれいに洗い、私たちに渡された。猫たちは係員によって動物愛護センターに運ばれていった。私たちは係員にお礼を言った後、そのハンカチをコロッケ屋のおじさんに渡した。きっとあのハンカチを無くして泣いていた少女は戻ってきてうれしがるだろう。
でも、裏では…。いや、これは伝えないほうがいいだろう。ていうかまず、あの少女と次いつ会うか分からないから考えるだけ無駄かもしれない。というのは無責任かもしれないなぁ。

そういえばあの3人はどこに行ったのだろう。神出鬼没というのはまさにこの事なのかな。

「じゃあ私はもう帰るよ。桃内ちゃん、また明日ね。」
「うん、また明日。」
さて、バイトがあるから急いでいかないと。とはいえこの時間だとバイトは1時間ぐらいしかできないと思うけど。
私は急ぎ歩きで家に向かった。走るための体力がない。1時間だけのバイトは短いけど大丈夫なのか。その辺は気合で何とかできるかな。なら、今走るべきだと思う。

結果、バイトは1時間しかできなかった。大切な収入源が…。今月は金欠だな。


次の日
下校中に伊達ちゃんと昨日の出来事を話していた。
「そういえば、今日の朝刊であの猫2匹の引き取り先探し中って載っていたよ。」
「そうなんだ、引き取り先見つかるといいね。ていうか伊達ちゃんって毎朝新聞読んでいるんだ。すごいなあ。」
「そう?小学生の時から週勘付いていたから読まない日のほうが違和感を持つんだよね。」
本当に天才的な高校生だな。生徒の鑑だな。
私は平凡だな。一般的の女子高生かな。たぶん。
「それで、今朝登校したときにあの小学生がコロッケ屋のおじさんのところに訪れていたよ。」
「あの小学生もハンカチが戻ってきてうれしがっていると思うね。」
「うん、だけどさ。私もハンカチをどこかに無くしちゃったの。」
まさかの天才でも無くしてしまう時も時もあるのか。天才だとしてもやはり人間。だからミスもあるし忘れてしまう。それは仕方ないよね。誰もがやってしまうからね。
「ものの管理って本当に気を付けないといけないとね。」
「そうだね。私も気を付けないと。」
「でも、桃内ちゃんなら魔法とかでハンカチ作成とかできるんじゃない?」
「私、魔法も裁縫できないからね。」
「いけるよ!努力すれば!」
「私は伊達ちゃんみたいな天才的な脳じゃないよ。」
「私も天才じゃないよ。努力でどうにかしているだけだよ。だから、出来るよ!魔法も裁縫も!」
「無茶言わないでよ!」
いつの間にかただの他愛もない会話になっていた。

キィィィィィィィ!!

どこかで聞いたような苦しい鳴き声が聞こえた。私たちはぞくっとした。
向こうから小学生が来た。
「お姉ちゃんたち、怖い、怖いよ…。」
昨日ハンカチを無くしていた少女だ。彼女の目には涙があった。ハンカチは戻ってきているのに。
「狸がね…猫ちゃんたちを…食べているの……」
「たぬき?まさか…!」
口にしなかったが私たち二人はこの子が見たことを察した。
狸ではなく、アライグマが猫を食べているのだ。先ほど聞いた痛々しい鳴き声は、襲われている猫の鳴き声だ。問題は猫たちが何故また捨てられているのか。
「なんで、今まで動物が捨てられることがなかった街だったのに…。」
ここの市民である伊達ちゃんも変だと感じていた。私はこの町の市民ではないが、連日動物が捨てられているのがおかしいのは思っていた。
近くの住民も家から出てきてこの場から離れた。
「早く逃げなよ!私たちじゃ何もできない!」
「アライグマが町に20匹ぐらい出たらしい!危険だ!」
「どうなっているんだ!?御陵市は平和と安全がモットーの街じゃないのか!?」
「駆除団体が来るまで襲われないように逃げないと!」
大の大人も逃げていた。私たちも逃げようと考えた。
「とりあえず、この場から離れよう。」
「猫ちゃんはどうするの!?助けないの!?」
「助けたいけどアライグマは人間にとって危ないの。だから近付いちゃダメ。」
「アライグマって人懐っこいから優しい動物じゃないの?」
「それだったら猫を食べないよ。」
「猫とアライグマって仲良くなれないの?」
「さあ、私たちは何もできない。」
「どうにかしてよ!お姉ちゃん!」
少女の無垢で無知な考えが正しいとも感じる。社会的には間違いだが、彼女は動物を大切にしている。それは、私たち高校生や大人たちと違っていたやさしさだ。どこかで忘れていた他の動物の生命を思っていた少女だった。

でも、私たちには何もできない。
昨日はあの3人が来たから何とかなったが、今日はいない。
駆除団体もまだ来ていないようだ。

気のせいか風が強くなっている。

グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
どこからか、先ほどとは違う少し高くて震えるような鳴き声だ。それに苦しんでいる鳴き声ではなく、何故か喜んでいるような鳴き声だった。
数秒後、近隣の木からガサガサと音が聞こえ、鳴き声も同時に聞こえた。
そこに目線を向けるとアライグマが2匹、木の上から私たちを見ていた。まるで私たちをターゲットにしていた。
アライグマの鳴き声は大きくなっていた。
少女の泣き声も大きくなっていった。

アライグマは人を全く怖がらない。昔、人はアライグマを怖がらなかった。今、人はアライグマを怖がるようになった。

アライグマはこちらをにらんでいる。
私たちは怯えている。

どうすればいい。逃げたら逃げたで襲われそうだし、でも逃げないといつ襲われるのかわからないし。
「どうしよう。とりあえずゆっくり逃げて行こうか。」
動揺しつつも冷静に対処する伊達ちゃんがすごい。
アライグマはこちらをまだ見つめている。

アライグマはうなっている。
アライグマは私たちを狙っている。
アライグマは…私たちに向かって飛びついてきた!?

どうすればいいの!?あの3人もいないのに!駆除団体もいないのにどうすれば!
…怖い。何もできないから怖い。
私たちは怯えていた。私たちはアライグマに目を背けていた

どうにかしたい!心の中が何かに目覚めていた。
私は目を開いた。何もできない自分だけどどうにかしたい!


私は魔女になった。


私が手を大きく開くと先ほどまで吹いていた風が、私たちを囲み疾風となった。
襲ってきたアライグマたちを疾風で振り払った。
アライグマは疾風によって壁に叩きつけられた。
死んだのかはたまた気絶したとかはわからないが、アライグマは1匹も動かない。
伊達ちゃんと小学生はいったい何が起きたか分からず、驚いていた。
私も驚いていた。助けたい気持ちはあったが、いきなり意味不明な能力を使用していたので混乱していた。
あの3人みたいに私も不思議な力を使っていた。

数分後、駆除団体が来た。すぐさま壁の近くに倒れているアライグマたちを処理した。
一人の職員が私たちに話しかけに来た。
「アライグマたちに襲われたりしませんでしたか?」
近くにいた私たちにするのは当然ともいえる質問だ。私と伊達ちゃんは先ほどの出来事をどうやって説明すればいいのやら…。
「あのね。このお姉ちゃんがね。よくわからないけど、風の魔法を使って追い払ってくれたの。」
小学生はやはり気楽に話していた。でも、大人は。
「あはは。そうか魔法か。そういうことにしておくよ。」
小学生の話を信じていなかった。当たり前か。

 

 

たぶん、続く

 

 

あとがき

話の展開って難しい( ゚Д゚)

どうも百合染野(ゆりぞめや)です。

前も書いたように、最初は2話から4話までを1話にまとめようとしたのですが無駄に長くなってしまいました。なんでだろう。

さて、存在感が薄い主人公、桃内真友ちゃんがやっと能力を使えるようになりました。ここからが本番ですね。個人的にはSFであり学園ものという考えです。と言ってもSFをやりすぎてはいけない。なおかつ学園ものを入れすぎてもいけないというのが難しいところですね。

ちなみに今後の話の構成はすごい穴あきですが考えています。いつも穴あきの状態から書いています。書いている途中でいいアイデアを思いついたりして、あ、これ入れたらいいんじゃないか、と書き加えていたりしますね。その結果がまとまらないってことなのかもしれません。反省します。

 

感想、誤植などがありましたらコメントお願いします。

 

 

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